体育館に竹刀の音が響く。 面を外してすっきりした視界であたりを見回すと端で新入部員に取り囲まれている土方が目に入った。 「土方先輩!これ、どうすればいいんですか!?」 「付け方ならに聞いたほうが・・・」 「先輩が教えてください!」 「先輩っていつから剣道やってるんですか?」 「・・・4歳とかだったな」 「すごい!それなら上手なはずですよね!!」 4人の1年の女の子達が土方の周りでキャイキャイとはしゃいでいる。土方は外した面を持ったまま途方にくれているようだ。見てて面白い。 「先輩、私達に剣道教えてもらえませんか??」 「女子は女子に聞いたほうがいいと思うんだけど、」 「そんなことないです!あ、私、面の付け方がよくわからないんです。紐ってどうやって結べばいいんですか?」 「いや、だから」 「やってもらってもいいですか?」 困ってる困ってる。もともと沖田や土方を目当てに入ったような子達だ。沖田はサボり。必然的に土方のところによってくることになる。こちらをチラリと見た土方はどうにかしてくれ、と視線で訴えて叫びにならない叫び声をあげているようにさえ見える。 流石に可哀想なので私も面と竹刀を持ったまま土方の所へ近づいた。 「こら1年!あんた達はまだ初心者なんだから防具は後。まずは竹刀の握り方からしっかり練習しなさい。」 適当に2年の子を呼んで彼女達に教えるように言うと、1年も渋々といった表情で2年の子に続いて女子が練習している場所に戻っていた。 土方はほっとしたように「サンキュ」と言う。 「・・・何なんだよ、あいつら」 「お疲れ。どうせ下らない理由で入ったんだから、1月もしないうちに音を上げるって。それまでちょっとの間辛抱して」 「おうおう、女主将は怖ぇーな」 「まあね」 土方は大きく伸びをすると溜息を一つついた。 「けどなー、あれが毎回かと思うとな・・・総悟の野郎もサボりやがって」 「沖田は多分一段落つくまでは来ないね。今日も『うるさいのいなくなった?』って聞きにきたもん」 「あいつ・・・」 ガクリと項垂れた土方は練習する気も萎えたのか、壁によりかかってぐるりと体育館を見渡した。さっきの女の子達を見たときには一瞬険しそうな顔をした。そりゃそうだ。竹刀を振り回してチャンバラのようにして騒いでる子達を見て私も良い気はしない。 「ったく、こっちは真面目に部活動に取り組んでるってのによ」 「そんなに迷惑?」 「毎回毎回これはなんだ、あれはどうするんだ、下らないことばっか聞きやがって」 真面目な土方らしい。 主将の近藤の暴走を止めて、サボりばっかりの沖田を引っ張ってきて、その上新入部員に要らない迷惑を掛けられて、実際一番苦労しているのは彼なのかもしれない。 「そんなに嫌なら適当に彼女でも作っちゃえばいいんじゃない?そしたら騒がなくなるよ、きっと」 「彼女って、ンな簡単に言うなよ」 同じようにして並んで壁に寄りかかると2年生に扱かれながらもやっぱり熱心に土方を見ている1年生達が見えた。土方はあえて気付かないふりをしているみたいだ。 「土方ならもてるからすぐ出来るって」 「いや、無理だろ」 「大丈夫だって」 「じゃあお前がなれよ」 「うん、いいよ」 軽く返事をしてからあれ、と思った。それは土方も同じだったらしい。 ギギギとぎこちない動作で首を横に向けると、こっちを向いてありえないくらい目を開いている土方がいた。普段なら笑っているところだけど、どうにも思考が上手く働かない。 土方は今なんて言って、私はそれになんて答えた? 体育館の喧騒が遥か遠くに聞こえる。 たっぷり時間を空けてから、視線が熱く交わった。 「「え?」」 「お前ソレ意味わかってんの?」 「多分、というか確実に・・・」 「じゃあきまりだな」 |