帰りのHRも終わりそろそろ部活動が始まる。私は図書室で本を借りて、もう誰もいないであろう教室へ向かう。これが私の日課だ。私の教室からは剣道部の練習している姿がよく見える。
好きになったきっかけなんて単純なもので、教室移動の時に階段で転びそうになった私を沖田君が助けてくれただけ。私の手をしっかりと掴んで「大丈夫ですかィ?」と聞く彼があまりにもかっこよくて、私はあっさりと恋に落ちた。 でも、見ていることが精一杯で、話しかけるなんてできなくて、だからこうして剣道部の活動がある日はHRを終えた後、図書室で本を借りて時間をつぶしてからもう一度教室に行く。窓際の一番後ろの席に座り、勉強しながら時折沖田君の姿を見る。部活の日は毎日見ているなんてストーカーまがいなことをしておきながら、すこし罪悪感もあって、誰に聞かれるわけでもないのに、勉強しているなんて理由をつけて。 「あれ、さんじゃないですかィ?」 階段を上っていると後ろから突然声がかけられた。ドキっとした。驚いたんじゃない。彼だって、わかったから。後ろを見ると、やっぱり沖田君がいた。剣道着だ。かっこいいな、そんなことを思っていたら沖田君は階段を上がってきて、私の隣に並んで歩き出した。 「教室に行くんですかいィ?」 「え、あ、うん」 急なことに驚いて上手く返事が出来ない。 だって、私の隣を沖田君が一緒に歩いてる。 「忘れ物でもしやしたか?」 「あー、うん」 しかも、喋ってる。私に向かって喋ってる。 うるさいくらいに心臓が鳴っている。これ、沖田君にも聞こえちゃうんじゃないだろうか。私は普通の顔が出来ているだろうか。 「ふーん。何を忘れたんでィ」 「え、えーと・・・」 沖田君が喋ってるのに、全く頭に入ってこない。自分がなんて言ってるのかもわからない。なんだか、夢みたいに靄がかかっている気がする。もしかして夢、かな。 「・・・さん、なんか心此処にあらずって感じですけど大丈夫ですかィ?」 「あ、うん」 「さては、教室に心でも忘れてきやしたか」 「うん」 どうしようどうしよう。私さっきから、全然まともに喋れてない。自分が何言ってるのかわからない。でも、どうすればいいかもわからない。 「それじゃ、俺は先に教室に行きやす」 「え?」 一気に目が覚めた。 やっぱ私と喋るのつまらなかったかな。折角沖田君と喋れたのに、これじゃ駄目じゃないか。 「さんが忘れてきた心、先に行って頂いちゃいますんで」 「うん・・・え?」 「んじゃ、」と言って沖田君は階段を駆け上がっていった。 (教室で何が待っているんだろう) |