前方にある大きめのテレビからは今日の日を特集した番組が流れ、街角でインタビューされた女の子達が嬉しそうに話をしている。妙に甘いBGMと興奮した彼女達の笑い声が耳障りで電源を切ると途端に部屋は静かになって、時計の音までもがカチカチと聞こえてきた。 「しんすけー」 ふかふかと心地のよいソファーに座ったまま名前を呼ぶと面倒くさそうな短い返事が背中から聞こえてくる。 コトン、と音がして目の前のローテーブルに湯気の立つマグカップが一つおかれた。 「あ、いいな。私にも頂戴」 「自分でやれ」 長めのソファーで私と反対側の隅っこに腰掛けた晋助はそのまま偉そうに足を組んだ。偉そう、ではあるがそんな仕草が様になる男だ。 立ち上がるのも面倒な気がして目の前のマグに手を伸ばして一口啜る。 「・・・苦い」 ブラックのコーヒーはやっぱり私には苦い。それを見た晋助は呆れたように私の手からマグを奪って自分で飲み始めた。 「今日は何の日でしょう」 「バレンタインデーだろ」 以外にも私の質問に晋助ははっきりと間をおかずに答えた。 「・・・その目はなんだ」 「もしかして、もう既に他の女の子から貰っちゃってたり?」 「なんでお前以外からもらわなくちゃいけないんだよ」 さらりと流すように言った一言は随分と重みを変えて私の心に届いた。にやけるやら赤面するやらどうしていいかわからない私を無視したまま晋助はまたコーヒーを一口飲んでからそれに、と付け加えた。 「お前らと違ってくだらない日本の行事に乗るつもりもねェよ」 「う・・・」 それを言われると私は「くだらない日本の行事」のために年明けからずっと頭を悩ませていたことになる。何を作るか、デコレーションはどうするか、ラッピングはどうするか。もしかして、全部水の泡? 「あだッ」 コツンと何かの角が頭に当たった。その何かはソファーの上にぽとんと落ちた。 「・・・これ」 ソファーの上に落ちたのは小さな白い箱だった。そう、丁度手のひらに乗るくらいの。 「本来のバレンタイン、といったところだな」 「開けていい?」 好きにしろ、という感じに晋助は目で頷いてみせた。 急いで箱を開ける。 入っていたのはペンダントだった。 銀色の大き目のハートのトップに嫌味にならない程度の色遣いでラインストーンがキラキラと輝いている。この間晋助とデートしたときに、その可愛さに思わず凝視してしまったものだ。 「嬉しい・・・」 角度を変えると更にキラキラと光るそれに見惚れていると、その向こうで晋助が笑ったのがわかった。 「こっち来い」 言われるがままに移動して晋助の隣に座る。私の手からペンダントを抜き取った晋助はそれを私の首に回して後ろで止めてくれた。一瞬ヒヤリと金属の冷たい感触がしたが、それもすぐに肌に馴染んだ。 「ありがとう晋助。大切にするね」 胸元を見下ろすと、どうしようもなく可愛いそれはまたキラキラと光った。 晋助も満足気に鼻をならして間近にいる私を見る。 一瞬視線が重なって、それを合図にお互いに求め合うようにして唇も重ねられた。無理やりに唇を割って入ってきた舌に対抗するようにして自分のものも絡めると僅かに苦いコーヒーの香りがした。でもそれも晋助の香りであるのなら気にならない。 そのまま静かにソファーに押し倒された。 「ん・・・、待って晋助」 「あァ?」 中断されて口を手で覆われた晋助の片目が不満気に眇められた。 「シフォンケーキ、作ったんだけど・・・ビター味で甘さほどほどの」 「・・・後だ」 再び噛み付くようにキスをされ甘く痺れるものを感じ、後はもう晋助に任せることにして首に手を回した。 溶けていく思考の中で思う。チョコだなんだと騒いでみたところで結局私達にとってはいつもと変わらない日だ。 なんら変哲のない。そう、 |
「愛してる」の声が重なった。 |