―ちゃん、沖田先輩に振られたらしいよ
あ、私も先輩が―先輩振ったって聞いた
また?二人ともすごいよね。もうこれで何人目かな
あの二人には告白してもOKされないっていうのが通説だからね











「「あ」」


ガラガラと扉を開けるとそこには沖田がいた。私も沖田のように自分の席に座る。教室には他に誰もいない。


「告白?モテる男は辛いね」


3列隣の私より2個前の席。つまりまったく違う席、に着いて机に突っ伏する沖田に声をかけると沖田は起き上がりもせずにああ、と答えた。


「そっちこそ告白なんだろィ?毎日毎日ご苦労なこって」
「お互い様ね」
「モテすぎも面倒だな」
「同感」


吐き出すように言うと、つい先程の光景が脳裏に蘇る。もう、何回ああして放課後に赴いたかわからない体育館裏でのことだった。


「『付き合ってください。絶対に好きにさせてみせます』だって」


今日言われた言葉だ。彼、名前何だっけ。顔は見たことある。でも、喋ったことはなかった気がする。まあいい。興味も何もないから。


「付き合うってーのはお互いに好きだからだろ?順序が逆じゃねーか」 「そうそ。沖田は?」
「『駄目なら、友達からでもいいんです!』だとさ」
「そんな下心のある友達なんて嫌ね」
「そうそ」


私の口調を真似てみる沖田に小さく笑いを漏らす。沖田はまだ机に突っ伏したままだ。私も頬杖をついて既に明日の日付と日直が書かれている黒板を見る。


「いきなり呼び出されて、顔も知らない人に告白されたってさ。貴方誰ですか?って感じじゃん。付き合ってみたら好きになった、なんてあると思う?」
「いんや」
「でもさ、無いともいいきれないと思わない?」


それが私が思うことだ。そもそも、さっき沖田が言ったように付き合うということはお互いが好きあっているからこそ成り立つ。でも、もしかしてそこを飛ばしても成就することはあるんじゃないだろうか、とは思う。仮にそうだとしても、興味がある男の子がいるというわけでもないが。


、ゲームしないかィ?」


沖田は突然ぐっと起き上がると椅子ごと私の方に向いた。
悪だくみでもしているかのように声を落として囁く。遠い席だけど、誰もいないから充分に聞こえる。


「ゲーム?」
「恋愛ゲーム」
「え、なんか危険な響き。面白そう」
「俺とあんたが付き合ってみて、身をもって付き合いはじめてから相手を好きになるかどうかを実験する。どうだィ?」


理由はいたって不純だけど、面白そう。席を立ち、沖田の直ぐ横の席に座りなおす。沖田はニヤリと口端を上げて笑った。


「いいかも」
「おまけに、」
「私と沖田が付き合ってるって知れ渡れば、お互い告白してくる人もいなくなるね」
「よくわかってんじゃないかィ。まさに一石二鳥。俺達、伝説の二人とか呼ばれているらしいぜィ」


沖田は小馬鹿にしたように言った。私も噂で聞いたことがある、銀魂高校伝説の二人。なんとも馬鹿げた話だ。


「いんじゃない?伝説同士で付き合うんだから次は神話にでもなるのかな?」
「言えてらァ」


ククッと喉を鳴らして笑った沖田は机の中から紙とペンを取り出した。


「よし。ルール作るぞ」
「ルールかあ・・・恋人らしく名前で呼ぶ。とか?」
「名前で呼ぶ、ね・・・」


復唱しながらサラサラと紙に書く。意外と字が綺麗だ。


「他は・・・考えてるとキリがないから恋人らしくってことでいいかィ?」
「うん。いいんじゃないかな」
「んじゃあヤッてもいいのか?」


沖田は冗談だか本気だかわからないような顔でこちらを見上げた。


「駄目に決まってるでしょう。恋人らしく、但し18禁にならない範囲。これでいいね?」
「チェッ」


沖田は隠すことなく舌打ちをすると、恋人らしく、の横に注意書きを加えた。


「んじゃあ、後は俺がルール作ってもいいかィ?」
「いいよ」


一度顔を上げて私が頷くのを見た沖田は再び紙と向き合いながら、次々とルールを作り始めた。


「期間は3週間、明日からな。相手を好きになったら負け。それが相手に気付かれた時点でゲームオーバー」
「ゲームオーバーになったらどうなるの?」
「今までどおりに戻る。このゲームのことは一切なかったことにする。」
「なるほど」


過酷なルールなような気もするけど、それで好きな気持ちだけでやり直せるならいいかもしれない。


「もし、途中でルール違反をしたら罰ゲームとして次に告白された奴と付き合うこと。ゲーム中はゲームをしている、ということには一切触れない。いいかい?今のうちにルール見とけ」
「わかった」


沖田に差し出された紙を見る。私達が今話し合ったことが箇条書きで書いてあった。


「3週間何も起こらなかったら?」
「その時は引き分け。付き合ってから人を好きになるということはないと証明されるわけだ」


なんだか楽しみになってきた。ただのゲームだ。深く考えすぎてはいけない。


「わかった」
「よし。これでルール完成。もう覚えたかィ?」
「うん。ばっちり」
「んじゃあ、この紙は捨てるぜィ」


沖田はルールが書かれた紙を細かくちぎってゴミ箱の中へと捨てた。


「交渉成立ってことで」


沖田は手を私に向かって差し出した。握手をする時のように。その手をしっかり握り沖田と目を合わせる。





「「ゲームスタート」」





私達のゲームが始まった。