中学の時、仲の良かった子がある日彼氏が出来たと報告してきた。曰く、告白されたから付き合う、と。好きでもないのに付き合うの?ばかじゃん。そう言えば、彼女は「これから好きになるかもしれないし」というわけのわからない返事をした。彼女は確か、今でもその彼とよろしくやっているはずだ。

「変なの」
「それはお前でィ」
「え?」
「人が折角話してやってんのに、ボケっとしやがって」
「ごめんごめん」

箸を遊ばせながら窓の外を見ていると、前の机の椅子に座ってこちらを見ている沖田は、私のお弁当箱からぴょいと卵焼きを摘まんでそのまま自分の口に放り込んだ。

「何の話だった?」
「だから、日曜は暇かってさっきから聞いてんだろ」
「日曜?暇だけど?」

沖田はよし、と頷いてまた一つ、今度はミニトマトを摘んだ。

「出かけるぜィ」
「出かけ?・・・それはつまり」
「決まってんだろ、デート」

デート。その部分だけ、沖田は強調するように言った。恋人達のする?そうか私達は、恋人、か。一応。振りにしてもそこまでするとは、沖田もなかなか抜かりない。

「いいよ。どこ行く?」
「お前どっか行きたい場所ないの」

話を振っといて何も計画はないのか。少し呆れながらも行きたい場所を考える。そういえば、CMを見て気になっている映画が一つあったな。あれなら沖田も退屈しないだろう。

「見たい映画があるんだけど、それでもいい?」
「ああ、いいぜィ」
「時間調べてメールするね」

メールもあの、ルールを決めた放課後に初めてアドレスを交換した。でもそれっきりでまだ一度も使ったことはない。頷くと沖田はまた一つ、私のお弁当箱から今度はウインナーを摘んだ。

「ちょ、総悟それとりすぎ」
「いいじゃねーか。ダイエットしろ」
「それ私が太ってるって言いたいの?」
「細くても胸がない女は好きじゃないんでね。いいんじゃねーの」

怒る私を見て沖田は楽しそうに笑った。それを見て肩の力が抜けた私も、お弁当は諦めて沖田が持っているポッキーに手を伸ばす。と、その袋はひょいと遠ざけられて私の指は空をかいた。

「ケチ」
「これは俺の大事な昼食なんでィ。欲しかったら土下座しろ」

嫌味ったらしくぽりぽりとポッキーをかじる沖田に苦笑しながら、ハッとする。
すごく、馴染んでる。
あの日以来、神楽ちゃんと妙ちゃんは昼食に誘ってこなくなったし、近藤君は「若いお二人でどうぞ!」などと変な気遣いをしてくる。休み時間を沖田と過ごすことはごく自然なことに感じられるようになった。認めるのも悔しいが、それを嫌とも思わなかった。どうして。今まで沖田とは同じクラスってだけで特に何も関わりもなかったっていうのに。 「蜂蜜色の髪に甘い笑顔」と女の子が持て囃す学校の人気者、けれど実態はといえば笑顔の下で何を考えているかわからないドS君。得体の知れないやつ。あんまり関わりたくない。実を言ってしまえばまともに会話をしたのはあの放課後が初めてだし、それはお互い大変だね、というおなじ悩みを持つ共感からに過ぎなかった。それなのにいつの間にかそのドS君は何故か私の学校生活の中に馴染みこもうとしている。